咆哮するは鋼鉄の火龍
 本多の作戦が開始する少し前、発電所の近くにある監視小屋から離れた所に火龍が待機していた。

 悩んでいた様子の立花は意を決したように立ち上がった。

 片倉はため息をつき、佐竹は待ってましたとばかりに目を燃やした。

立花
「各員に通達する。回線開け」

鍋島
「繋ぎました」

立花
「全乗組員に次ぐ。

 先に捕らえた敵捕虜を信頼し、ここより先の監視塔の破壊と亡命してくる者の保護をするのが我々の任務である。

 …ではあるがだ。

 彼らは亡命を希望した時点で我々の保護すべき対象になっているのではないか?

 このままなら我々の被害は少くて済む。

 しかし彼らは今まで十分苦しんだ。

 怪我をしている捕虜にだけ戦わせる腰抜けには私はなりたく無い。

 我々は彼ら決死隊を見捨てはしない、例えそれが罠であってもだ。

 私は彼等が流した涙に賭ける。

 戦士の涙にはそれだけの価値がある!

 従えぬ者は今すぐ下りろ!

 従うものは命を捨てろ!

 これより本車両は発電所へ侵攻を開始する!

 各員戦闘態勢をとれ!

 必ず決死隊を助け出す!」

十河
「おっしゃー!待ってました」

赤松
「今度こそ主砲撃てますように撃てますように。

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

宇佐美
「流石は立花さん!」

ノッポ
「今度は先頭車両が活躍出来そうだな」

コック
「新しい機銃は私がもらいますよ」

片倉
「まかしときゃ良いんじゃないすか?」

佐竹
「これは我々の戦いだ、嫌なら降りろ」

立花
「機関長に通信」

鍋島
「どうぞ」

立花
「機関全速前進」

機関長
「わかりやした。すっ飛ばします!」

立花
「鍋島、これより先私からの作戦指示は全車両に常時繋いでおいてくれ」

鍋島
「はっ」
 
 各々が配置に付き、火龍は加速していきスピードが乗って来た頃、前方に監視小屋が見えた。

ノッポ
「前方左舷に小型敵施設発見!」

立花
「あれが監視小屋か、警戒車、指揮車の機銃のみ発砲を許可、指揮車は私と佐竹少佐で射撃する」

 立花と佐竹は指揮車上部の銃座に座り、前方を確認すると敵の土嚢に機銃が見えた。

立花
「警戒車!機銃を狙え!」

 その時敵の機銃から発砲があった。

佐竹
「遠い遠い」
 
 焦った敵兵が火龍に向けて狂ったように撃ちまくっていた。

 「カンッ…カンッ」と小石をが数回当たる程度の被弾音がし、先頭車両が十分に近づいた時、一気に火龍側、警戒車から二挺の機関銃が火を吹き土嚢ごと敵の機銃を吹き飛ばした。
 
 それに続き立花と佐竹の機関銃が敵の簡易的な施設を蜂の巣にした。
 
 小屋は崩れ落ち、火龍は何事も無かったかのように敵のテントを舞い上がらせ走り去っていった。

佐竹
「ふー中々先頭車両の奴らもやりますね」

立花
「佐竹さんも腕は衰えてないですね。
 
 とりあえずあそこは後で制圧するとして今は先をいそぎましょう」

佐竹
「銃弾の補充をしときます、警戒車にも一応言っといてくれ」

鍋島
「了解しました」

立花
「問題は次だ、全乗組員!

 昨日渡した地図を確認し敵勢力の位置を把握せよ、主砲は線路脇のトーチカ前方を狙い土煙を上げろ、目眩ましだ」

通信(十河&赤松)
「おっしゃー」

立花
「リトル準備は良いか?」

通信(リトル)
「いつでもどうぞ」

立花
「副砲は土嚢と塹壕を狙え」

片倉
「施設まで距離およそ30kmそろそろ発電所の山が目視出来ます」

通信(ノッポ)
「遠方に発電所を確認」

立花
「頼む、生きていてくれよ」

 発電所からは迫撃砲の着弾音が聞こえていた。

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