咆哮するは鋼鉄の火龍
 主砲上部のハッチを開け赤いモヒカンの主砲長十河が地図を片手に双眼鏡を覗き込んでいた。

十河
「もうちょい左、もうちょい、もういっちょ、行き過ぎだ馬鹿、おっし!そこだ。

 上、上、ちょい下、ちょい下、ちよい下止めろ!OK」

 十河の指示で同じく赤いモヒカンの赤松が主砲が狙いを定めていた。

 赤松は目と口がペイントされた砲弾にキスし装弾した。

赤松
「頑張ってくるんだぞ、あにいー!何時でも撃てます」

十河
「こちらの判断での発砲許可を願います」

通信(立花)
「許可する。全乗組員耳を塞げ」

十河
「おっしゃー!

 赤松、一番槍は我々の物ぞ!」

 そういうと十河は耳当てを着けた

十河
「赤松、カウント5ー4ー,3,2ーー.1、撃てっ!」

 轟音と共に、激しい振動が全車両に響き、龍の装飾が施された主砲の砲口から火が吹き出し、辺りの空気が震えた。

 凄まじい砲撃音のそれは、まるで鋼鉄で武装した火龍が咆哮するかのようであった。

十河
「砲身右回転、右、右」

 十河は着弾を確認せず即座に赤松へ指示を出していた。

 警戒車両の上部ハッチを開けノッポが64式ライフルのスコープで確認していると、火柱と共に地響が鳴り、トーチカのブロックと共に粉塵が舞い上がった。

通信(ノッポ)
「すげえ!主砲、11時方向のトーチカに命中」

佐竹
「命中?直撃させたのか?

 2キロも離れてる目標にこのスピードで走っている車両から?」

立花
「信じられない」

 その時火龍が再度咆哮を挙げた。

佐竹
「うおっ耳がー鼓膜がー」

立花
「あとで何か考えないとな」

通信(ノッポ)
「さらに命中!前方にポイントを確認」

立花
「なんて奴等だ。

 リトル行け、警戒車!

 機銃で援護しろ」

 六両目の扉が開かれ、オフロードバイクに乗った歩兵部出身のリトルが飛び出し、火龍を追い越した。

 リトルは線路と平行して作られた塹壕と並行して走り、銃を塹壕に向け乱射しながらポイントに向かった。

 バイクの頭上を援護射撃の銃弾が飛び、ポイントを破壊しようと向かっていた敵兵を一掃した。

 火龍が分岐点に着く直前でリトルがポイントの切り替えに成功し、火龍が発電所への複線に乗り、最後尾の火砲車からリトルが敵兵にとどめを指しているのをファットが確認した。

通信(立花)
「最後尾、リトルは無事か?」

ファット
「倒れた兵をM9で介護してました」

立花
「…うーん、まあよしっ、機関長!

 発電所の前で止めてくれ。

 全砲筒を右舷に向けろ、左にも警戒」


通信(コック)
「左からトラック、こっちに来ます!」

立花
「本多だと思うが一応警戒車の副砲を向けておけ」

 発電所では迫撃砲に向けて敵兵が接近していた。

 本多の部下達は向かって来る火龍を見つけ、崖からロープを下ろし絶壁を蹴りながら降りた。

東名兵上官
「くそっかわされた。

 おいっ撃つなどうせ当たらん。

 ロープを切れ…おいっ!

 おいっあれはなんだ」

 火龍がすでに発電所の前に到着し、崖上に砲口を向けていた。

立花
「副砲、主砲一斉射撃!

 用意、撃て!」

 全砲門の一斉射撃で火龍は少し傾いた。

立花
「装填完了次第、各自、次弾発射」

 ここでも十河と赤松のコンビは次々に撃ち活躍した。

東名兵上官
「なにやってる、こっちも迫撃砲を撃ち返せ」

敵兵
「無理です、ガソリンが蒔かれています」

 その瞬間、迫撃砲に火龍からの主砲砲撃が着弾し辺りの砲弾に誘爆すると崖上は大炎上した。

十河
「たーまやー!」

東名兵上官
「ぐおっ!退却ー退却指示!」

立花
「撃ち方止め!鍋島拡声器用意」

鍋島
「いけます、どうぞ」

立花
「我々は人類再編統括本部軍である。

 ここは我々が制圧した。

 勝敗は決し、大方の兵は逃亡した。

 施設にいる者は速やかに武装を解除し投降せよ。

 繰り返す、我々は…」

 後ろからトラックから降りた本多とバイクに乗ったリトルが乗り込んできた。

リトル
「後方の敵の殲滅を確認しました」

本多
「立花殿!本来の作戦とは違うのでは?」

立花
「我々は箱根の住民を守る責務があります。

 貴殿方の家族の難民保護要請を受けた頃よりすでに守るべき対象となっている為、貴方達も含め被害を抑える作戦に切り替えました。
 
遅れてすいません」

佐竹
「施設から投降兵が本多さんの部下に連れられて来ました。

 四人共無事ですよ」

本多
「立花殿、本当に…本当に助かりました」

立花
「こちらの台詞ですよ」
 
 二人はとても固い握手を交わした。

 思わぬ助っ人に助けられ、火龍は当初の任務目標を見事達成したのであった。
< 17 / 70 >

この作品をシェア

pagetop