咆哮するは鋼鉄の火龍
 出撃前夜、乗組員達は黒田の計らいで温泉旅館に集い、さやかな宴席を楽しみ、当分の間味わえる事のないであろう平穏の中、大抵の者は早々に綺麗な布団で眠りに着いた。

 眠れぬ立花は宴会の後一人抜け出し地下シェルターに向かっていた。

 トンネルのゲートからは光が漏れている。

 (誰かいるのか?)と足を早めると、兵器管理部長である榊原が一人作業していた。

立花
「榊原部長」

 立花に気づいた榊原は胸から煙草を取りだし、ガスバーナーで火を着けた。

榊原
「宴会はどうした?」

立花
「終わりましたよ」

榊原
「なら早く寝ろよ、だからお前は小っせーんだ」

立花
「榊原部長は休まれないんですか?」

榊原
「それやめろよ」

立花
「えっ?」

榊原
「俺は身内からは親方って呼ばれてんだよ」
 
 立花は身内と扱われたのが嬉しかった。

 榊原はこの時既に、研修訓練期間中の立花を見て、力を認めていたのだ。

榊原
「明日御披露目だろ?少しでも油を射したりして気を使うのが親心ってもんよ」

立花
「本当は一緒に行きたかったんですよね?」

榊原
「ああ、でも宇佐美が行くから安心だ。

 宇佐美が心配でもあるがな。

 あいつは機転が効くし、何より俺より機械オタクだ。

 本人には言うなよ」

立花
「本人には聞けなかったんですけどあの右手…」

榊原
「ありゃただの事故でな、ほんで俺が力を込めたら義手のモーター回るようにしてやったんだ」

立花
「なんだー無理矢理改造されたのかと思いましたよー」

榊原
「そこまでマッドじゃねーよ、干渉に浸ろうとしに来たんだろーが俺はやる事があるからもう帰って休め」

立花
「そうします。
 では後をお願いします。
 失礼します親方」

 背を向けて立ち去ろうとする立花を榊原が呼び止めた。

榊原
「おいっ、前はあー言ったがな、いくらでも壊してもいいから生きて帰ってこいよ。
 
 負けたっていいんだ。
 
 そんときゃまた俺がなんか作ってやる。」
 
 立花は深々と頭を下げ、何故、兵器管理部の結束が強く、別称「榊原一家」と呼ばれているのか分かった気がした。

 立花が帰って来ると、旅館の前には男の番頭が待っていた。

番頭
「立花さん何とかした方がいいんじゃないですか?
 
 明日御出陣されるんですよね?」
 
 旅館の番頭が言っている事を直ぐに理解し、立花は騒音の元へ急ぎ旅館の番頭が後へと続いた。

 一部の血気盛んな乗組員が風呂場で酒を飲み大騒ぎしていたのだ。

 立花を見た瞬間不味いと思った乗組員達は騒ぎを止めた。

立花
「佐竹は?」

乗組員
「先にお休みになっております」

立花
「番頭さん、普通の精神の持ち主だったら明日からの事で頭がいっぱいで寝てられませんよ。

 申し訳ないが酒をもっと持ってきてくれます?」

番頭
「へーへー、まあ課長さんがそう言われるんでしたら」

立花
「おい佐竹も起こして来い」

乗組員
「はっ」

立花
「今、工場では榊原さんが汗を流して作業してくれている。
 
 俺たちは風呂で汗を流し結束を固めよーじゃないか!
 
 戦勝の前祝いに飲みまくるぞ!」
 
 叱咤されると思っていた乗組員達は立花の意外な言葉に浮かれると同時に感動した。

 本当は休みたかった立花は束の間の休息を犠牲に、信頼を勝ちとった。

 さっきの榊原を少し真似てみたのだ。

 佐竹は無理矢理起こされ風呂場の惨状を目の当たりにし、思わず「ジーザス」と呟いた。
 

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