狡猾な王子様
「そう。じゃあ、またの機会に」


「はい」


必死に笑みを繕った顔は、きっと情けないものだっただろう。


鏡を見なくてもわかる程、眉尻が下がっているのを感じた。


蘇りつつある鼻の奥の鋭い痛みを必死に堪えながら、次の注文をメモに取った。


次の注文はトマトだけで、なんだかホッとした。


こんな風に感じるのは初めてのことで、理由のわからない安堵感に更に滅入ってしまう。


「じゃあ……私はこれで……」


「うん、またね」


「はい……」


いつものように店先まで見送ってくれた英二さんは、やっぱりいつもと同じように穏やかに笑っている。


勝手に傷付いたのは、私。


だから……。


決して英二さんが悪いわけではないけど、それをわかっていても笑顔を返せなかった。


「運転、気をつけてね。雨、これから降るみたいだから」


「はい……。ありがとうございました」


目を合わせられないまま頭を下げ、逃げ込むように飛び乗った車を出した──。

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