狡猾な王子様
「どうぞ」


カウンターの椅子を引いてくれた英二さんに、慌てて首を横に振ったけど……。


「今日は新しい葉があるんだ」


やんわりと促されたことに気付いて、仕方なくそこに腰掛けた。


「ちょっと待ってね」


そう言ってからトマトを片付けた英二さんは、いつものように手際よくアイスティーを淹れてくれた。


「はい、どうぞ」


「あ、はい。すみません……」


差し出されたグラスの中には、透き通ったブラウンの液体とクラッシュアイス。


どう見てもシンプルなアイスティーだけど、とてもいい香りがした。


「これね、イギリスのお土産なんだ。仕事でイギリスに行った知り合いが買って来てくれたんだけど、やっぱり本場の物は風味が違うよ」


どうやら気まずさを感じているのは私だけのようで、英二さんは至って普通の態度だった。


だから……。


「……どうりでいい香りがすると思いました」


私も必死に平静を装って、いつものように笑って見せる。

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