【特別番外編】苦手な教師

不機嫌そうに口を尖らせる千秋が可愛くて、僕は意地悪く尋ねる。


「……ヤキモチですか?」


きっと彼女は意地を張って否定するだろうと見当をつけたが、潤んだ小さな唇が紡いだのは、こんな言葉だった。


「……そうです。本当は他の人からのチョコ、全部断って欲しいくらい」


頬を赤らめながら僕を睨む千秋。……可愛すぎる。

今ここで、人目も憚らず抱き締めてしまいたい。

僕がそんな想いを抱いているとは知らない彼女は、こう続けた。


「……でも。私はそうしない先生だから好きなんです。ちゃんと彼女たちの真心を受け取ってあげる先生だから」


そして、彼女はにっこり笑った。


“真心――――”

千秋のその言葉で、僕の中にある年のバレンタインの記憶が蘇ってきた。


『どうせ同じ分の真心は返せないんだから、受け取らない俺の方が思いやりがあると思いますけどね』


そう言って、全てのチョコをありがたく受けとる僕を“ご苦労なことだ”という目で見てきたあの男の記憶……

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