コール マイ ネーム
 男前は、まだ二つのリキュール瓶にてこずっている。カウンター内にいるもう一人のバーテンに、ちらりと目配せするが、もう一人のバーテンは別のお客に接客中で、男前からのSOSに気付く様子はない。

 ちっ。

 そんな小さな舌打ちが、聞こえた気がした。
 そして次の瞬間、あろうことか男前はカシスの瓶を選んだのだ。

 ――ああ、もう!

 未奈は心の中で声を上げた。

 スプモーニにカシスを使って、一体どんな新商品を作りだそうというのだ。

 しかし、今のとんちんかんな行動は先のつっけんどんな態度と比べ、かなり可愛らしく見える。

 男性に対し、可愛らしいというのは褒め言葉にはならないかも知れないが、少なくとも未奈に好印象を与えたのは事実だ。これがギャップ効果というものなのだろうか。

 その光景に、緊迫していた気持ちが少し緩むが、それはすぐさま元通りになることになる。

「おい、俺といるのに、男鑑賞か? サイテーだな、お前は」

 未奈の耳をかすめたのは、人を小ばかにしたような声。

 声の主は言わずもがな、今から未奈を振るつもりの男である。
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