コール マイ ネーム
 自分はよその女のものになった証(リング)をきらめかせている癖に、なんという言い草だ。

「っ!」

 文句のひとつでも言ってやろうと、未奈が睨み付けた先にあるのは、予想と反してニヤニヤと笑う顔。

 この流れで、どうして雅也は笑っているのか。何がおかしいというのか。

 一瞬そんな考えが過ぎったが、ああ、そうか。そういうことなのか。と簡単に答えがわかってしまった。

 雅也は、別れる原因を未奈に挿げ替えるつもりなのである。

 未奈のダメな部分をチョイスすることで、揚げ足を取ることで、自分がよそに女を作ったことを正当化させようという魂胆だ。

 マイナス思考などというなかれ。その証拠に、彼は過去を掘り下げてまで未奈の悪い部分を並べ始めるではないか。

 ひとつ。前に未奈が携帯を置き忘れ、電話を取れなかったときのこと。

 彼曰く、本当は他の男と遊んでたんじゃねーの? らしい。

 ふたつ。未奈の料理の腕が全然上達しないこと。

 彼曰く、俺に対し、愛情がないからだ。らしい。

 もはや、目ざとい姑のようだ。

 叩いて叩いてほこりを出してくる。

 ――ああ。

 未奈は緩みそうになる目頭を押さえた。
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