WITH


その表情は、さっきまでの笑顔でもなく無表情でもなく……苦虫を噛み潰したような、そんな表情だった。



「行くぞ、紗和……」



呟くように吐かれた言葉と共に、抱かれていた腰を引かれて歩き出そうとしたけれど、



「紗和ちゃん、コレ忘れてるよ?」



晴哉の声に歩みを止めると、差し出されたのは私のバッグ。


きっと、バーから連れ出された時に晴哉が持って来たのだろう。


私に荷物を持つという時間さえ、与えてはくれなかったのだから……



「あ、ありがとう……」



お礼を述べて受け取る瞬間にっと笑った晴哉に、私は曖昧な笑顔しか返せずにいると、



「オレ、諦めないから♪」



そう言って、私との距離を詰めた晴哉から退くかのように、廉に抱かれたままだった腰が引かれて離された。



< 199 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop