WITH
その表情は、さっきまでの笑顔でもなく無表情でもなく……苦虫を噛み潰したような、そんな表情だった。
「行くぞ、紗和……」
呟くように吐かれた言葉と共に、抱かれていた腰を引かれて歩き出そうとしたけれど、
「紗和ちゃん、コレ忘れてるよ?」
晴哉の声に歩みを止めると、差し出されたのは私のバッグ。
きっと、バーから連れ出された時に晴哉が持って来たのだろう。
私に荷物を持つという時間さえ、与えてはくれなかったのだから……
「あ、ありがとう……」
お礼を述べて受け取る瞬間にっと笑った晴哉に、私は曖昧な笑顔しか返せずにいると、
「オレ、諦めないから♪」
そう言って、私との距離を詰めた晴哉から退くかのように、廉に抱かれたままだった腰が引かれて離された。