もう一度愛を聴かせて…
橘さんは何を言ってるの?

わたし、こんな形でロストバージンなの?

彼に愛されてるんじゃなかったの?


いろんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。


「お……願い、好きって言って……愛してるって、そう言って……お願い」

「好きじゃない。誰が、おまえのことなんか……やりたかっただけだ。コレのために、付き合ってやっただけだ。勘違いするな!」


その瞬間、大切に育ててきた想いが音を立てて崩れた。


あとはもう、めちゃくちゃだった。


混乱していて何どうなったのか、よく覚えていない。


でも、はじめは我慢できそうだった痛みが、どんどんひどくなったってことは覚えている。

自分の口から出る言葉が、「痛い」と「やめて」だけになったことも。

しだいに声も出なくなって、唇を噛み締めて、早く終わってくれるように祈っていた。


それでも、わたしは思っていたのだ。

これが市村さんじゃなくて、橘さんでよかったって……馬鹿みたいに、そんなこと考えていた。


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