もう一度愛を聴かせて…
玄関の鍵をかけて来なくちゃ……そう思って、わたしは立ち上がった。


「イッ……タイ」


違和感と鈍痛だけが残っている。

バスローブを羽織り、階段をゆっくりと下りるが、足元はふらついた。

玄関の鍵はかけ、部屋に戻る。ついでに部屋の鍵もかけた。これで大丈夫、もう誰も入って来ない。

ベッドに横たわり、布団に潜り込んだ瞬間、身体がカタカタと震え始める。

わたしは膝を抱え、小さく小さく身体を丸めた。


次々に涙があふれてきて止まらない。愛してるって言って欲しかった。嘘でもいいから、そう言ってくれたなら、何もかも許せたのに。

今までの優しさはなんだったんだろう? 

こんなことをするために、セックスのためだけだったなんて。


わたしはセックスをしてしまった。


近い将来、橘さんとこのときを迎える。彼にわたしの初めてを全部あげよう。愛してるってたくさん言われて、キスされて、ひとつになりたい。そのときはきっと、生まれてきたことや、彼と出逢えた奇跡に感謝すると思う。


そんな、素敵なシーンを、感動のロストバージンを夢見ていた。

でも現実は、ひどい罵声を浴びせられ、キスすらしてもらえなかった。


経験したら、『汚れた身体』って書かれてあるのを見たことがある。わたしは汚れてしまったんだ、とそんなことを考えていた。


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