もう一度愛を聴かせて…
応接間のソファに四人で座って、お兄ちゃんも両親も、相手の名前を言えとそればっかりだ。

そう言えば、ここで市村さんに襲われたのがそもそもの始まりだった気がする。

あれがなかったらわたしはシャワーなんか浴びなかった。そうしたら、橘さんもあんな誤解はしなかっただろう。

たしかに、この子を授かったときは力ずくだった。でも、素敵な思い出をたくさんくれたから。それまで、粉々にしたくなかったのだ。

好きだったから、ううん、まだ好きだから。


「若菜ちゃん、どうして相手の人の名前が言えないの? ひょっとしてあなた……無理矢理」

「違うっ! 違うの、そうじゃない。そうじゃないの。お母さん、ごめんなさい」


そうだって言ってしまえって、もうひとりのわたしが頭の中で言ってる。


橘さんにひどいことされたんだ、って。嘘じゃない、本当のことなんだし……。

でも、お父さんはきっと訴えるだろう。おおやけになって、わたしが退学になれば、黙って済ませるわけがない。


「お願い……します。わたし、赤ちゃん産みたい。産まれたら働くから……ううん、明日からだってバイトする。だから」

「若菜ちゃん。自分の言ってることがわかってるの? 第一、今何ヶ月なの?」

「三ヶ月に入ったとこだって言われた」

「どうしてA市のお医者さんまで行ったの?」

「……て、適当に……飛び込んだの……看板に女の先生の名前が、書いてあったから……」


安西先生の病院は、橘さんの友達の実家だ。訪ねて行かれたら、先生も親だったら色々話してしまうかもしれない。


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