RED ROSE
紅い茨


 木枯らしが、道行く人々の足を速める季節がきた。

 冬。

 皆、思い思いの暖かな装いで、白い息を吐きながら、各々目的の場所へと歩いて行く。大翔は行きつけのコーヒーショップで、そんな冬の景色をじっと見つめていた。

 ――冬……か。

 この街に越してきてから、雪というものと縁が薄くなった。あの街では雪は珍しくなく、ここのように積雪がまるでイベントのようにテレビで報じられる事も、ましてや救急車がそれで街を走り回る事も滅多になかった。いくらでも走れるし歩けた。転ぶ事は成長するにつれ殆どなくなったし、それほどまではあの街でも滅多に積もらなかった。

「ごめんなさい」

 物思いにふけっていると不意に声がし、大翔は顔を上げた。振り返ると、バイトを終えた美玲が少し赤い顔で、側に立っていた。

「もう帰れる?」

 淡いピンクのネックウォーマーに白いニット帽。同色のコートを羽織った、まだ少しあどけない顔の女子高生。最近少し背が伸びたらしく、長身の大翔の瞳の高さに頭が少し近付いた。

「美玲ちゃん、お疲れさま」

 テーブルの上を片付けている先輩らしきスタッフが二人を見て笑顔を作る。その如才ない笑顔に二人もつられ、薄く笑った。

 時間は夜の九時を少し回ったところだが、人通りはまだ多い。

「お先に失礼します」美玲が頭を下げ、そのまま二人で外に出ると、何もない夜空が二人を出迎えた。

 クリスマスが近いせいか、通り全体がどことなく華やかで、様々な場所から様々なクリスマスソングが流れ、コートの襟を立てて歩いていても、何となくふわふわと暖かい感じがする。イルミネーションに女子高生らしく瞳をキラキラ輝かせる美玲の隣で、大翔は唇を結んだまま、駐車場へと先に歩きだした。

「あ」

 長い脚で歩く大翔の動きに、慌てた様子で美玲が小走りで駆け出す。と、何かに蹴躓いた彼女がバランスを崩し、つんのめった。

「大丈夫?」

 大翔の長い腕が、まるで流れるような自然な動きで、前のめりになった美玲の身体を抱き止める。美玲は瞳を見開き、はっと息を止めたような顔で、大翔の腕にしがみついた。

「……ありがとう」

「足元少し暗いから、気をつけて」

 言いながら、体勢を整えた美玲に向かって、大翔が小さく肘を突き出す。“捕まって”と 言う合図だ。美玲もすぐに気付いたようで、慌てたようにその腕に自分の両腕を絡めてきた。

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