RED ROSE
コンビニの袋を握る手が汗ばみ、買い込んだ食材の重さで、ナイロンが指の腹に食い込む感じがする。大翔はその少し不快な感触にため息をつくと、住宅地へと足を向けた。
帰って飯食って、風呂入って……。これからの予定を頭の中で整理しながら歩いていると、突然、どこかから何かの音がし、次の瞬間、何かが横から大翔に体当たりしてきた。
「きゃっ……」小さな悲鳴をあげて、ぶつかってきた何かがアスファルトに転がる。不意の事に大翔もよろけ、手に持っていたコンビニの袋を落とした。
「つっ……」
街灯に照らされて浮かび上がる長い脚。不自然に露になった小麦色の細い肩に、大翔は目を見張った。
「助けて……!」身体を起こしながら、長い脚の主がそう言った。「お願い、助けて……!」
言うなり、素早い動きでそれが大翔に抱きついてくる。
「えっ……?」
大翔は状況が把握できず面食らったが、その胸元を見た瞬間、反射的にその細い手首を掴み、走り出していた。
「早く、光(ひかる)……」
そう口走って――。
どれくらい走ったのか、気付くと二人は大翔の家の前で、息を荒げていた。
「……大丈夫?」
膝に手を当て、肩で息をしながら大翔が訊くと、それは胸元に手を当てたまま、頷いたようだった。
「……ありがとう」
やはり息を乱したまま、それが答える。大翔はようやく顔を上げ、さっきまで一緒に走っていたそれを見た。
小柄な少女だった。黒いシャツの前を両手で握りしめ、素足で震えているのが街灯越しに確認でき、大翔は思わず横を向いた。
「ちょっと……待ってて」
大翔はそう言うとそこに彼女を残し、急いで自分の部屋を解錠して中に入ると適当にシャツを取って戻り、彼女の肩にかけた。必死にシャツの前を握りしめているその姿が、いたたまれなかった。
「誰かに追われてたの……? 警察、行こうか」
彼女の様子が普通じゃない事は容易に理解できる。大翔は少し困惑しながらも、しかしこのままにもしておけず、そう言った。
「警察は……駄目……」
優しく話しかける大翔に安心したのか、少女がそう言った。
「警察には、行けない……」
「えっ? あ、じゃあ……」