RED ROSE
闇に咲く狂気
「……過去なんて、関係ないと……?」
美玲を正面に見て、大翔は言った。
「俺がどんな奴でも、構わないの……?」
大翔に見つめられた美玲が静かに頷く。しかし、大翔は小さくかぶりを振り、美玲から視線を逸らした。
「……ごめん」消え入るように、大翔は言った。
「きみはそれでよくても俺がよくない。俺は人を殺した。その人の未来も夢も幸せも、俺が徹底的に奪ったんだ」
「それは……」
まるでそのまま消えてしまいそうな大翔の姿に危機感でも覚えたのか、美玲が走り寄る。すると大翔ははっとしたように顔を上げ、素早く後退した。まるで、触れないでくれと言うように。
「償ったんじゃないんですか……? ちゃんと償ったんでしょう? だから……」
「償えばそれで許されるの……?」美玲の言葉を遮って大翔が言った。
「償えば後はチャラ? そんなの、反省でも更正でもない。真面目なふりなら誰だってできる」
「違う、あなたは……」
後退した大翔に更に近付こうとする美玲に、大翔は今度は激しくかぶりを振って見せた。それは完璧な“拒絶”の姿勢だった。
「何が違うの? きみはそこまで俺を知らないだろう?」
大翔の言葉に、美玲が動きを止める。そして、言葉に詰まった表情で、大翔をじっと見つめた。
「……俺がきみとの同居を決めたのは、恋愛感情からじゃない。きみを“あの家”から救い出したかった。それだけだよ」
それだけ言って大翔は美玲に背を向けた。そしてそのまま、駐車場へと歩き出した。静かな歩み。その背中と鼓膜は、美玲が力なく後をついてきている足音を微かにひろっていた。
完璧なまでの“拒絶”……。
肩まで湯船に浸かり、美玲は深くて長いため息をついた。まさかあそこまではっきりと拒絶されるとは正直、思っていなかった。
――同情だったんだ……。