RED ROSE
戸惑い


「久しぶり」

 美玲がY市に引っ越して一週間目の日曜日。早番でバイトを終えた彼女の所へ遥がやって来た。

「大変だったね」

 コーヒーショップを出、いつものファミレスに移動した二人は席に着くなり、互いに安堵の息をついた。

「やっぱ外は寒いね」

 遥の言葉に頷きながら、美玲はマフラーを外し、コートも脱いでメニューを見た。

「遥、何にする?」

「いつものかな、美玲は?」

「あたしも」

 二人していそいそと荷物をソファの隅に追いやり、注文をとりに来た店員にオーダーを済ませる。とりあえず暖まろうと、順番にドリンクバーに立ち、飲み物を持って席に戻った。

「学校の皆は、やっぱり噂してる?」

 カプチーノを一口すすり、恐る恐る美玲が訊くと、遥は一瞬目を伏せた後で、ゆっくり頷いた。

「美玲さ、よく転んだとか言って包帯とかしてたじゃん。まぁ、あたしを含め皆、薄々何かあるんだって感じていたんだけど……お父さんに殴られてたんだね……」

 遥の言葉にこくりと頷き、美玲はうつむいた。

「黙っててごめん」

「ううん」遥は首を振り、微笑んだ。「……言えないよね」

「……」

 遥の呟きに美玲が言葉を失う。と、それに気付いたらしく、遥が突然、話題を変えた。

「それより、あの彼は?」

「えっ?」

「ほら、下宿してたって片想いの彼! 事件の後、彼も出てっちゃったんでしょ?」

「あ……」

 遥が誰の話をしているのかが判り、美玲は思わず愛想笑いを浮かべた。遥には大翔を“大学生の親戚で家に下宿中”と説明していたのを思い出した。

「どっか、アパート借りたみたい。あたしも引っ越しやら何やらでバタバタしてたから……」

「そっか……」

 美玲の返答になぜか遥が落胆の表情を見せる。「残念」

「えっ? ど、どうして?」

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