RED ROSE


 蚊の鳴くような小さな声が、いつまでも耳の奥でこだました。




 後ろ手にドアノブを握りしめたまま、美玲は動く事ができなかった。サンダルをはいた脚が、まだ震えている。屋内が暗いので、恐らくもう、酔いつぶれて寝ているのだろう。美玲は思い切って玄関を上がると、足早に階段へと向かったが、闇の中で微かに音がし、登りかけた足が一段目でぴたりと止まった。

「……」

 肩先に感じ、背中に冷たいものが走る。恐る恐る、その気配の方へと顔を向けると、いつの間にか、彼女とよく似た女性が美玲を見つめていた。

「美玲……」

「……ただいま」

 それだけ言い、美玲が階段を勢いよく駆け上がって部屋のドアを閉め、施錠の音を鳴らす。その様子に女性は辛そうに項垂れると、瞼を押さえながら自分の部屋らしいドアを開け、中に入って行った。
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