RED ROSE
再生の時


 明るい青空だった。美玲は叔母と共に裁判所の前に立ち、その空を見上げていた。




 あの後眠ってしまい目を覚ますと、大翔はもういなかった。部屋を出ると、台所のテーブルに朝食が用意され、【仕事に行きます。公園を通る時、気を付けて】と記された置き手紙が残されていた。

 帰る前に大翔の顔が見たかったが、夕べの事を考えると少し照れ臭かったので、少し複雑な気持ちを抱えつつ、美玲は大翔の作ってくれた朝食をとった。久しぶりに口にする大翔の料理はとても美味しかった。食べながら、昨夜の事を思い返しては、一人で顔を赤くした。

 大翔の唇の感触を自分の唇に確かめる。大翔のキスも愛撫も、とても優しくて気持ちよかった。幸せな夜だった。

【朝ごはんありがとう。仕事頑張って】

 食器を片付けた後、美玲はそうメールを打ち、アパートを後にした。風が凄く冷たかったが、苦にならなかった。生まれ変わったような気持ちで見つめる景色は、明るく鮮やかで、いつも見ていたのに違って見えた。




 次の日曜日。バイトが休みだった美玲は、弁当を携え、アパートを訪れた。驚かせてやろうと、大翔には何も伝えずにやってきた。少し詰めすぎてしまったバスケットを抱え、アパートに近付いた時、美玲は駐車場にバイクがない事に気付き、がっくりと肩を落としたが、くじけなかった。

 連絡もせずに来たのだから想定内。そう、自分を勇気づけ、気を取り直し、鍵を取り出した。

 ――何か、恋人みたい。

 ふふふ。一人にやつきながら鍵を差し込んで解錠し、ドアを開けた、その時だった。目の前に広がるがらんどうに、声をなくした。

「何……?」

 信じられない光景だった。二人で暮らした部屋の中は、引っ越してきた時と同じ状態に戻っていた。

「嘘……」
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