満月の人魚
砂浜は誰もおらず、波の押し寄せる音だけが聞こえる静かな世界だった。

水面に月の光が反射して、キラキラときらめいて見える。

風に乗って潮の香りが鼻をくすぐると、瑠璃はなぜかとても懐かしいような気持ちになった。

まるで目の前に広がるこの大きな海こそが、瑠璃の大昔の故郷であるかのようなー

瑠璃が感傷に浸っていると、隣で丈瑠がドサッとその身を下ろした。

「丈瑠!」

瑠璃は慌てて丈瑠の隣にかがみこむ。

「…大丈夫だ。…海はきれいだな。」

相変わらず荒い息をつきながら、丈瑠は海に視線を投げる。

「丈瑠、背中の傷を見せて。」

見ると丈瑠の上着はべっとりと血に塗れ、ズボンまで伝っていた。

「……これ‼」

今まで歩いてこれたのが奇跡に思える程、傷は瑠璃が思っていたよりも遥かに深いものだった。
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