ロリポップ
 う~・・・頭痛~い。
 胸焼けするし、のど乾いた・・・。

 重いまぶたをやっとの事で開いて、ぼうっと天井を見る。
 ・・・・・?
 あれ?家の天井ってこんなんだった?
 なんかいつもより天井が高い気がするんだけど。
 働きの遅い頭でそんな事を考えながら、目に入る情報を確認していく。
 電気も違う・・・カーテンも違う・・・。
 気が付く自分のワンルームのマンションとの違い。
 さっきから確認するのが怖いんだけど、背中に回されてるのって・・・私の前にあるのって、誰かの腕で胸・・・だよね?
 肩を抱き寄せるように誰かの胸の中で目覚めた私。
 静かに寝息を立てる私を抱きしめる人。
 確かめるのが怖くて視線を上げる事さえ出来ないけど、彼は多分・・・恩田君。
 服から香る爽やかなグリーンの香りは、記憶の中の彼の香りと同じだ。
 
 ・・・どうしよう。
 
 自分の状況に完璧にパニックの私。
 だって!だって・・・私、昨日の飲み会の後半の記憶が綺麗サッパリないんだもん・・・これって、かなり不味くない!?
 
 思わず自分の服に目をやって、絶望的になってきた。

 昨日着ていたのはモスグリーンのシフォン素材のワンピースだったはずだ。
 
 で、今着てるのは?
 
 はい・・・恩田君の物らしきグレーのスウェットです・・・。
 
 はい、次は下着を確認してみましょう!
 
 ・・・先生・・・ブラジャーをなくしました。
 
 どこに?
 
 では、最後の確認です。おパンツ様ははいていますか?
 
 YES!!はい!おパンツ様ははいております!!!

 って、一人脳内確認作業終了・・・。

 パンツをはいていたから大丈夫って、それ、間違ってない?
 自分で自分に突っ込みつつ、目でブラやワンピースの行方を探すけれど全く見当たらない。
 いったい何処に脱いじゃったわけ!?
 ちょっと、いや、かなり泣きそう・・・・・。

 帰りたくてもワンピースがない事には帰る事も出来ない。

 外はもう日が高くなっているようだった。
 遮光カーテンのせいで部屋の中は薄暗いけれど、隙間から漏れてくる日差しはかなり明るい。
 
 どうしよう。そればかりが頭の中をグルグルと繰り返される。



 ♪~♪~♪~・・・

 
 どこかで恩田君の携帯の呼び出し音が響く。
 私のじゃないのは音楽で分かる。
 この曲、私も好きな映画のエンディング曲だ。
 


「ん~・・・」


 携帯の呼び出し音に目が覚めたのか、私を抱きしめていた恩田君の腕が離される。
 おずおずと視線を上げると、寝癖のついた栗色の髪の毛が顔の前で揺れている。
 昨日よりも幼く見えるのは、セットされていない髪型のせいなのか。
 寝ぼけまなこの恩田君は、いまいち焦点の合わない視線で私をボーっと見ている・・・・・ような気がする。
 髪の毛が瞳を半分隠しているから、表情は読み取れないけれど。



「・・・・・おはよ」


 見上げる私を確認した恩田君は、見る見る間に真っ赤になって大きく見開いた目で私を見ている。
 


「逢沢さんっ!いつから起きてたんですか!?」


 ん?聞くことはそこ?
 まあ、私には記憶にないけれどここまで来た記憶が恩田君にはあるってことよね・・・すごく複雑な心境だけど。


「15分くらい前?で・・・」



「で?」


 ああ・・・聞きにくい。
 そんなに無防備に聞き返してきたりしてこられたら、聞くに聞けなくなってきちゃうじゃない・・・。


 私の様子で感じ取ったのか、恩田君はベッドの上に起き上がって座る。
 私も、モソモソと起き上がって座ろうとしてズボンをはいていないことを思い出して、慌てて布団を引き寄せた。

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