ロリポップ
 「何?急に乙女チックキャラ?どうしたの?」


 噂話云々よりも、遥かに今の発言に心配そうな顔をする友華に、ちょっと複雑な気持ちになる。

 いや、私だって思うよ?

 いい年して乙女キャラはないだしょう?って。

 今更、キスからですか?みたいな。

 中学生でもあるまいし。

 そう思うけど・・・そう思うんだから仕方ないじゃない。


「分かってます、いい年してそれかよって、自分でも思ってるんだから。・・・でも、今まで、自分からキスしたいとか思ったこと無かった」


 そう告白する私の顔をまっすぐに見て、友華は一口コーヒーを飲むとカップを置いた。


「あるよ、キスしたいと思うこと。むしろ、思わない日は無いかもしれない。シャツの襟元とか開いていた日には、会議室で押し倒そうかと思ったわよ。なんでそんなに肌をさらしてるのよって叫びそうだったし。毎日、そんな事の繰り返しよ。好きな男に欲情しないなんて、そんなのたいした「好き」じゃないのよ」


 しれっと言い切る友華はかっこよすぎる。
 ちょっと声が大きすぎて、店内の視線を集めてるのは恥ずかしくて堪らないけれど。


「で、キスしたんだ?」


「えっ?・・・・・あ・・・うん・・・」


 焼けるように熱い私の顔、真っ赤だと思う。
 


「びっくりしてたでしょ?」


「え?それはない、かな。だって恩田君、高熱で薬飲んで眠ってたし」


「はあ!?相手って恩田君なの!?って言うか、病人、襲ったわけ!?」


「ちょっ!!!友華!!」

 声が大きすぎるって!!
 狭い店内に響き渡る昼食時に不似合いな会話に、興奮気味の友華を睨みながら早く出ようと思う。
 友華が一緒だと、知らない人にまで、私の恋愛事情が知られてしまう恐れがあって、危険すぎる。
 
 残りのコーヒーを一気に飲み込んで席を立つ。
 
  
「恩田君だったの?」

 
 会計を済ませる私の側にきた友華は、小声で私に問う。



「ごちそうさまでした」


 そう言ってお店を出る。

 何はともかく、店内で続きは勘弁してよ・・・・。




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