ロリポップ
 待ち合わせの一時に5分前に神社に行くと、恩田君はすでに来て待っていた。

 鳥居の下で、少し俯いた頭が恩田君だとすぐに分かる。

 今日はグレーのダッフルコートにジーンズ姿で、大学生でも通用しそうな感じで、いつもよりも若く見える。
 実際、若いんだけど。

「おはよう、待たしちゃった?」

 私の声に顔を上げた恩田君はブンブンと首を横に振って

「おはようございます。僕もさっき来たところですから」

 といつもの笑顔をみせる。

 和む~と思っていたその笑顔に、ドキッとさせられて思わず視線を逸らしてしまう。

「寒いから耳が痛いや」

 なんて嘘をつきながら、耳に手を伸ばして顔を伏せた。
 
 自覚したら自覚したで、緊張してくる。

 初めて出来た彼氏と、一緒に帰った高校生の時よりも緊張してる今の状況に、乙女チック症候群の重症だと、感心すらしてしまった。

 初恋でもないのに何でこんなに緊張してるのか、と。

 手汗だって半端ない。

 万が一にでも手を繋ぐシチュエーションになったとしても、お断りせざるを得ない汗の掻きようだ。

 今なら手の平に、小さな滝が出来ると言っても過言ではないかもしれない。

「逢沢さん、どうかしましたか?」

 その声に顔を上げれば、心配そうに覗き込む恩田君の茶色の瞳があった。

「え?ううん、何でもないよ。行こうか?」

「そうですね」

 2人で鳥居をくぐった。

 元旦じゃない神社はやっぱり人が少なくて、お賽銭箱の前も並ぶ必要も無かった。
 実家の神社のお賽銭箱前は人の山で、たどり着く前に体力をどれだけ消耗したことか・・・。
 2人でお賽銭箱にお金を入れて、願い事を心の中で言う。

(皆が幸せになれますように・・・)

 と呟く。恩田君が幸せになれば、私は恩田君とは幸せにはなれないけれど。
 それでも、みんなが幸せにと願う。
 

 横の恩田君をチラリと見ると、恩田君も私を見ていて驚く。

「真剣に何をお願いしたんですか~?」

「恩田君は?」

「僕ですか?内緒です」

「だったら私も内緒です」

 そんな会話に和みながら神社を後にした。

 やたらと寒いと思っていたら、やっぱり雪が降ってきて2人で近くのカフェに入る。

 恩田君はコーヒーで私はカフェオレで。

 
 

 
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