ロリポップ
 電車に揺られて向かうのは恩田君のマンション。

 部屋にきませんか?と普通に言われたけど、考えてみれば何もないのに恩田君のマンションに行くのはこれが初めて。

 一回目は残念ながら部屋に入った記憶もないほどの泥酔状態。

 二回目は恩田君が高熱の時。

 そして、今日は・・・・・。

 「部屋に来ませんか?」

 考えれば考えるほどに妙に緊張してくる。

 手には汗が滲んでくるし、息苦しい・・・。

 
「そんなに緊張しなくても、今日は何もしませんよ?」


 ははは・・・・・。

 今日はって・・・本当に野獣じゃないよね?





 相変わらず、恩田君のマンションは広かった。

 
「さあ、どうぞ」


 リビングのソファーへバッグを置いて、コートを脱いだ。
 ひんやりした空気が余計に緊張感を誘う。

「すぐに暖まると思いますから、少し我慢してくださいね」


「うん、大丈夫」


 まるで借りてきた猫のように、ちょこんとそこに座る。
 
 部屋の中は看病した時と変わっていなかった。


「暖まるまでこれを飲んでてください」


 差し出されたのはココアだった。
 受け取る時指先が触れて、そんな事にもドキッとしてしまう。
 ピクッと反応した指先を見て、恩田君はふふっと笑っていた。

 
 乙女チック症候群様・・・・・


 ホントに勘弁してください・・・・・


 私、こんなキャラじゃないんです。


 峰 不二子って言われてるキャラなんですよ?


 峰 不二子は男を手玉に取るんですよ?


 いや・・・私は取りませんけど。


 指先が触れたくらいでドキっとかしないんです、峰 不二子は。


 目が合っただけで恥ずかしげに俯いたりしないんです、寧ろ、ウィンクしてルパンを誘ってます。

  
 こんなに動揺とかしないんですよ、本物の峰 不二子は。





 そう、本物の峰 不二子なら。

  
 
 偽者はこんなにも気の弱いヘタレなんです・・・・・。







 
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