紗和己さんといっしょ
「じゃあアレはどう思う?ほら、電車でメイクしてる人とか」
リキッドの肌色をうにうにと塗り広げながら尋ねてみた。
ちょっと意地悪な質問かな。でも紗和己さんの理屈じゃそれもOKって事になっちゃうもんね。
なんだかそれは彼らしくないなって思って、敢えて聞いてみる。
「ああ、いますね。そういう女性。
でも僕が彼女らの恋人や夫だったらきっと怒っちゃいますね」
あれれ?それって矛盾してない?
「どうして?可愛いんでしょう?」
釈然としなくて塗りかけのぬり絵みたいな顔のまま、紗和己さんの方を向いてしまった。
けど、紗和己さんは照れくさそうに笑うと云う私の思いもよらなかった表情を浮かべて
「そんな可愛い姿どうして他人に見せるんだって、妬くからに決まってるじゃないですか」
そんな甘ったるい台詞を吐き出した。
「恋人の特権ですよ。彼女が綺麗になっていく姿を間近で見れるのは」
本当にニコニコしながら言う紗和己さんの本心なんだろう、これは。
「つまり僕は今、恋人としての特権をフルに堪能してるわけです」
そう言って頬杖をつきながら私を眺める紗和己さんの視線に、ファンデーションを塗りかけた私の頬がみるみる赤く染まっていく。