砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
どうやら自覚はあるらしい。

たしかに、自分の娘といっても通るような年齢の妻を得れば、手放しで可愛がりたくもなるだろう。

その反面、彼は身分に関して拭い切れない劣等感を抱えている。

すべてを解放したあと、万にひとつ、レイラーの裏切りにでも遭えば、さすがのカリム・アリーも平静ではいられないはずだ。


「私はどうやら……面倒な妻を押しつけたようだな」

「今さら言われましても」


苦笑いを浮かべつつ、カリム・アリーは続ける。


「シーリーン正妃のような女性であれば、私も寝台の上で、安堵できたのかもしれませんね。どうでしょう……後継者にも恵まれたことですし、取り替えますか?」

「よかろう。だが、取り替える必要はない。レイラーを我が妃としてハーレムに迎える。やがて生まれる子供には王子、王女の称号を与えよう。おまえは……寝台の上で安堵できるような女を探すがよい」

「……」


サクルの返答は完璧に予想を超えていたようだ。

カリム・アリーはらしくもなく、目を見開き固まっている。


「馬鹿め。私を理由に逃げ道を作り続ける限り、安堵できる夜など来るものか。素直に、妻を愛していると言え」

「ご慧眼の至りに存じます。で、陛下――ハーレムが地獄も同然という件はどうなりました?」


振り出しに戻り、返答に詰まるサクルだった。


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