シークレット・ガーデン
小さな改札とプラットホームが1つしかない田舎の駅。
バスのロータリーもなく、駅の周りはいきなり人家だ。
唯一、1軒だけあるコンビニ風の商店は、もうすでにシャッターが降りていた。
海が近いから、夏になればもう少し賑わいをみせるのだろう。
「理亜ちゃんのママ、バイバイ!またね〜元気でね〜理亜ちゃんによろしくね〜!
渚、ピアノと学校、頑張るからね!」
プラットホームに立つ真彩に、金網越しに渚が叫ぶ。
夜11時近いというのに、舞浜からホテルまで、ずっと車の中で寝ていた、という渚は元気一杯だった。
『もう、すごいの!海賊が生きているみたいなの。
渚、殺されるかと思ったあ。シンデレラ姫と写真撮ったの。すごく綺麗な人だった。
渚はチップとデールが好き!可愛くて、いたずらっ子だから』
ホテルの部屋で、真彩の服が乾くまでの間、一緒に過ごした。
初めていったディズニーランドの感想を渚は興奮気味に教えてくれた。
あれから、ピアノもなんとか続いているらしく、
『[猫踏んじゃった]が得意なの!』
と威張っていた。
逢ったばかりで別れるのは残念だけれど、あまり遅くなってはいけない。
真彩の夫が妻の帰りを待っているのだから。
プラットホームに1人佇み、真彩は笑顔で、司と渚に手を振り返す。
駅に人は誰もおらず、少し不気味だったから、司達は電車が来るまで真彩を見送るつもりらしかった。
渚は去年の夏より、すらりとして、顔立ちも大人っぽくなった。