先天性マイノリティ
擦り切れた雑巾のような気分で街を歩く。
空に浮かぶ雲は憐れむように漂い、顔を覗かせた太陽には、気分はどうだい、と揶揄されているようだ。
チラシ配りのキャンペーンガールや風俗店紛いの勧誘を沈黙で圧し返しながら歩き続ける。
…コウが死んだのに、こんなにも変わらないという悲劇。
苛立ちとも哀しみともいえない気持ちを抑え込み、賑やかな交差点の信号待ちで足を止める。
人混みの中、擦れ違う人々。
──この中のどれくらいの割合が幸せを実感し、不幸を背負っているのだろう?
誰もが求める幸福の定義は崇高な曖昧さを振り撒き、悠然と佇む。
神と謳われる存在がいるとすれば、幸せに固執する現代の人間の愚かさをさめざめと嘆いていることだろう。
文明が進化を遂げる度に、精神の退化も進んでいく。
皮肉な結果だ。
人間は、おもちゃのスタンガンでぬいぐるみを殺すようにいとも簡単に戦争をする。
家庭、職場、友達、恋人をも容易く射程圏内に入れる。
自らを誇張するナルシシズムの塊であり、下等生物の一種だと思う。
どんなに財産があっても美味いものを食べても満たされない喪失、それは命だ。
大切な存在がいる前提でなければ、どんな幸福もやがては不幸になる。
そう考えた後、自分が泣く寸前だと気づく。
景色が一時停止し、雑踏のざわめきがノイズ化する。
──しっかりしろ、臆病者。
自らを叱咤し持ち堪える。
信号が青になる。
移動する群れに紛れて再び歩き出す。
鼻の奥がつんと痛み、俯いた視界はゆらりゆらりと霞む。
コウというベクトルを失くした今、どんなに形のいい定規もコンパスも使う気にならない。
…今測ってみたところで、全く違う長さになっているだろうから。