先天性マイノリティ
発信後、僅か二コール。
かけてくるのが遅い、という文句が鼓膜を揺らす。
からからに渇いた自分の喉から洩れた謝罪の言葉は思ったよりも間抜けな声だった。
ああ、俺は生きているようだ、と滑稽に実感する。
元気か、と他人事のように問うと、葬儀で会ったばっかりでしょう、と返される。
…その後、暫しの沈黙。
機械越しに、あんたのことだからなにもないように寝てるか狂ってるかのどっちかだと思った、と届く。
笑って、残念ながら後者に近い、と溢す。
私もだから、と汲み取られる。
──前例がなさ過ぎて、ハルマゲドンが来たみたい。
彼女は言った。
俺もそう思う、と伝えた。
どちらからともなく会う約束を伐り出して通話を切る。
溜め息とも仄かな安堵とも取れる脱力。
明日世界の終末が訪れても、そうですか、の一言で済む。
本当にそんな気分だ。
テーブルの上に放置していたペットボトルの水を飲み干す。
室温で温くなり、不味い。
空になった容器はぺこりと簡単に潰れ、ごみ箱の中で息絶えた。
…不要になったものの末路は呆気ない。
埃っぽいクローゼットから適当な服を引っ張り出し、のろのろと準備を始めた。