先天性マイノリティ
帰り道、流行りのアイドルの誰が一番可愛いかという内容で揉めた。
マラソン大会をサボってコウの家でゲームをした。
高熱で休んだ俺の家に看病という名目で二人が押しかけて来て、鍋を真っ黒に焦がされたこともある。
…ああ、楽しかった。
コウとメイに出逢ってからの毎日は、本当に楽しかったんだ。
記憶以上に脳裏にしっかりと焼きついている軌跡の痕。
深緑色の廊下、掘り傷だらけの教室の机、砂埃混じりの屋上の匂いや、ひやりとした空気の充満する早朝の体育館。
高校時代の景色を背景にして、まるでアルバムに貼った写真を捲るように次々と蘇る過去。
──こんなにも早く思い出になってしまうなんて考えもしなかった。
月日が流れるのは早い。
コウと共に生きた、人生のうちのほんの僅かな期間。
時間は残酷だ。
どうしたって古くなってしまう。
過ぎ去った刻は現在に濾過され断片しか遺らない。
触れた指先の感触、笑った表情、何気ない会話…全てがぼやけて古くなる。
今以上決して更新されなくなること、それが死だ。
時代のサイクルは移り変わりが速過ぎて、人の絆や繋がり、歴史や命までもが容易く呑まれてしまう。
百年足らずの生涯の中で藻掻きながら人間は誰かを愛し、愛されたいと強く願う欲張りな生き物だ。
無償愛を謳いながらもきっちりと見返りを期待する。
俺も例外ではない。
この身を捨てる覚悟でコウの手を取ったつもりだった。
しかし結局、なにひとつ投げ出してはいない。
世間体があるから。
同性愛者のレッテルを張られてしまうから。
俺たちの関係を、メイ以外の友人にはどうしても話せなかった。
…もしも俺が、コウの自殺の原因に絡んでいるのだとしたら。
だって、好きな相手がいるのに、死ぬだろうか?
俺はコウの恋人として役不足だったのではないか?
失望させてしまったのではないのか?
明確な解答があるはずなのに、その問いは円周率の数値のように果てしなく終わりがない。
…俺は、コウを守れなかった。
ただそれだけが、今解り得るたったひとつの事実だ。