先天性マイノリティ



帰り道、流行りのアイドルの誰が一番可愛いかという内容で揉めた。

マラソン大会をサボってコウの家でゲームをした。

高熱で休んだ俺の家に看病という名目で二人が押しかけて来て、鍋を真っ黒に焦がされたこともある。

…ああ、楽しかった。

コウとメイに出逢ってからの毎日は、本当に楽しかったんだ。


記憶以上に脳裏にしっかりと焼きついている軌跡の痕。

深緑色の廊下、掘り傷だらけの教室の机、砂埃混じりの屋上の匂いや、ひやりとした空気の充満する早朝の体育館。

高校時代の景色を背景にして、まるでアルバムに貼った写真を捲るように次々と蘇る過去。

──こんなにも早く思い出になってしまうなんて考えもしなかった。

月日が流れるのは早い。

コウと共に生きた、人生のうちのほんの僅かな期間。

時間は残酷だ。

どうしたって古くなってしまう。

過ぎ去った刻は現在に濾過され断片しか遺らない。


触れた指先の感触、笑った表情、何気ない会話…全てがぼやけて古くなる。


今以上決して更新されなくなること、それが死だ。


時代のサイクルは移り変わりが速過ぎて、人の絆や繋がり、歴史や命までもが容易く呑まれてしまう。

百年足らずの生涯の中で藻掻きながら人間は誰かを愛し、愛されたいと強く願う欲張りな生き物だ。

無償愛を謳いながらもきっちりと見返りを期待する。

俺も例外ではない。

この身を捨てる覚悟でコウの手を取ったつもりだった。

しかし結局、なにひとつ投げ出してはいない。


世間体があるから。

同性愛者のレッテルを張られてしまうから。

俺たちの関係を、メイ以外の友人にはどうしても話せなかった。


…もしも俺が、コウの自殺の原因に絡んでいるのだとしたら。

だって、好きな相手がいるのに、死ぬだろうか?

俺はコウの恋人として役不足だったのではないか?

失望させてしまったのではないのか?


明確な解答があるはずなのに、その問いは円周率の数値のように果てしなく終わりがない。



…俺は、コウを守れなかった。



ただそれだけが、今解り得るたったひとつの事実だ。




< 19 / 95 >

この作品をシェア

pagetop