先天性マイノリティ
目が覚めたらこの街を題材に漫画を描いてみようか、なんて暢気に思いながら歩いていると、誰かの肩にぶつかる。
すみません、と謝り顔を上げる。
黒いスーツを着た男と視線が合う。
「…ウエダさん!?」
「君…シュウヤくん、だよな?どうしてここにいるんだよ。来たら駄目だって。うわ、面白え」
想定外の対面。
互いに瞠目する。
"夢の中"とはいえ、俺は記憶もしっかりしている。
彼が亡くなったとユウ兄からメールがあった。
数日前にキサラギさんと話もした。
…ということは、今目の前にいるウエダさんは俺の脳内が造り出した産物であって、勿論本人ではない。
「知ってる?俺が死んだこと」
「ユウ兄から聞きました。それから、キサラギさんとも話しましたよ」
「お、良かった。シュウヤくんが側にいてくれれば、メイのことは安心」
生前とちっとも変わらない口調でウエダさんは言った。
死んだ人と会話をするなんて、夢は本当になんでも有りだ。
現実ではもう逢うことの出来ない、キサラギさんとサクラくんの大切な人。
夢の中だとわかってはいるけれど、言っても良いだろうか。
訊いても、良いだろうか?
『どうして自殺なんてしたんですか』
…問い掛けようとして、止める。
訊くまでもなく、彼が答えを紡いでしまったから。
「ゼロジとメイを、幸せにしてやりたかったんだ」
だから死んだ。
でも結果は散々だ、解放してやりたいなんて自惚れだった、ユウタにも悪いことをした、と悲痛な面持ちで呟く。
「死ぬのはちっとも美徳なんかじゃなかった。ドラマの中みたいな美化はお薦め出来ない」
「当たり前ですよ。俺、自分の描く漫画のキャラですらも自殺させたくないし」
「ああ、なるほど。そういうもんかもね」
軽い調子のウエダさんに溜め息を吐く。
流石変人だ。
こんなに穏やかな顔をしているくせに、血塗れで死んだらしいのだから。
…夢の中でも彼はマイペースで、カリスマだった。