先天性マイノリティ
「ところで俺が本気で好きだった人、誰だか知ってる?」
「俺に訊くんですか、それ」
選択肢は二人。
キサラギさんか、サクラくん。
俺は高い確率で後者だと踏んでいたけれど、この人は予想を遥かに上回った返答をした。
「俺はメイが好きだった。でも、ゼロジと付き合ってた。どっちも本気だった。二人のどちらかなんて、選べなかった」
…ウエダさんの物差しは不可解だ。
俺から見たら、キサラギさんへの感情は家族愛で、サクラくんへの執着が恋愛感情だと思うのに、それを言ったら首を横に振られた。
「実はこうして死んだ今も、わからないんだよな。メイとゼロジ、どっちが好きなのかがさ」
「俺が見たところ、キサラギさんはサクラくん一筋みたいですけど」
「ああそうそう、それは知ってる。だから俺、メイには失恋決定なんだけど。告る気にすらならなかった」
「なんですか、それ。滅茶苦茶じゃないですか」
ウエダさんほど変な人は知らない。
自分の好きな人がわからないなんて笑えてしまう。
この人の二人に対する辞書に記してある内容はLove一辺倒なのだろう、と推察する。
「年を重ねていくのが嫌だった。メイもゼロジも、いつか俺のもとを離れていくだろうから。ずっと三人でいるには、俺が死ねば一番いいと思った」
「…俺にはさっぱりわからない理屈ですけど」
考えてみると、確かに人間の心理に於いて恋愛感情ほど難解なものはないかもしれない。
良い側面が信頼や希望、幸福に繋がっているのとは裏腹に、ロミオとジュリエットのような悲劇や太宰著の「人間失格」の主人公のような陥落、連日ニュースで報道されている、愛憎の末の殺人、なんて類のものに直結してしまう場合もある。
愛しているから殺す、なんてクレイジーな世界は到底理解出来ないけれど、ウエダさんの場合は稀少な例だと思う。
…愛し過ぎて自分を壊した。
自己犠牲と自己満足は紙一重だ。
夢の中であるのに、ふと考える。
人類から愛を取り上げたら、一番最期まで遺るものは一体なんなのだろうと(とはいえ愛にも種類があるから、一括りには出来ないのだけれど)。