先天性マイノリティ
手元の携帯電話を握り締める。
数日間放置していただけなのに感触が懐かしく思え、控えめな凹凸のキーの位置さえも違和感を放つ。
日常生活からのゲシュタルト崩壊。
…廃人寸前の俺の魂の質量は、何グラムだろう?
いっそのこと、風船のようにしぼんで萎れてしまえばいいのに。
考えることの全てが他人任せの自分に自己嫌悪メーターの針がフルを指し示す。
携帯の履歴には着信がずらりと並んでいた。
殆どの発信元は、コウの葬儀で泣きながら棺に殴りかかった女。
祭壇の花をむしって男言葉で叫ぶ姿は狂気の沙汰だった。
喪服と呼ぶには厳つい黒い皮ジャンに真っ赤なボーダーのTシャツ。
いかれた格好で暴れる彼女を見て、無礼者、常識知らずと罵る者がいなかった理由は、彼女の迫力に圧倒され、その場にいた全員が杭を打たれたように魅入ってしまったからだった。
コウの死に対しこれほどまでにダメージを受けているのは俺と彼女、コウの両親くらいだろう。
親指で辿る、リダイヤルの痕跡。
数ヶ月ぶりに通話をするような気がしてしまう。
人間の記憶ほど覚束がなく頼りないものはないのかもしれない。