*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「でも………月を見ているとね。


なんだか、不思議な気持ちになるの」







「不思議な気持ち、でございますか」








露草の控えめな問いに、六の君は優しく頷いた。








「いつまで見ていても、月はいつまでも変わらず美しくて。


ずっとずっと、見ていたいような………。



なんだか、私たちの生きる世界とはまるで違う………そうね、天上界と言うのかしら、そういうものが確かにあるのだと思えるわ。



それでも、いつかは何か、どこかに変化があるのじゃないかという気もして。


まるで、何かを待っているようなーーー、そうね、私は、月を眺めながら、待っているのかも知れない………」








六の君の言葉は抽象的で、露草にはその言わんとするところがよく理解できなかった。





それでも、その言い回しの端々に知性のきらめきを感じ取ることはできた。



こんなにも美しく聡明な姫が、なぜ日陰の身のような暮らしを強いられてきたのだろうと、露草はしみじみと哀しくなる。







「………とにかくね。


私は、月が好きなの」







六の君が優しく微笑んだ、その瞬間。





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