*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
再び、叫び声が聞こえてきた。



その声が発された位置は、先ほどとは違うようだ。





露草は、一体何が起こっているのかと、背筋が寒くなるような思いをする。




しかし六の君は、さらに首を巡らせて、いま起こっていることを見極めようとしているようだ。







「……………が出たぞーーっ!!」






「北の対の方へ向かったぞ!!」







六の君が、きりりと頬を引き締めた。




事態が思いのほか緊迫していることを悟ったのである。







「こっちへ来るみたいよ、露草!」







そう小さく鋭い声を上げ、壺庭の方へと歩み出そうとする。





しかし、思うように動くには、あまりに重すぎる装束。




六の君は一度母屋に入り、重ね着た五衣(いつつぎぬ)の袿(うちき)を、表着(うわぎ)ごと、迷いもなくばさりと脱ぎ捨てる。




はしたなくも、小袖の上に着た単(ひとえ)と袴だけの、有られもない姿になった。







「ーーーまぁっ、姫さま!」







露草は慌てて目を覆うが、六の君は気にする素振りもない。









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