*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
身軽になった身体で、母屋と広廂(ひろびさし)の間に半ば巻き上げられた御簾の下をくぐる。








「姫さま、六の君さま!!



お出になってはいけません………!!


危のうございます!!



なりませんわっ!!」








蒼ざめた顔で必死に引き止めようとする露草を振り返りもせずに、六の君は押し殺した声で叫ぶ。








「露草、あなたはここにいて!


危ないから来ちゃだめよ!」








六の君は飛び出すように広廂へ下り、外の様子を窺った。








「………北の対へ行くぞ!!


姫さまに何かあっては大変だ!!


止めろ、止めろ!!」








その声は、寝殿と西の対をつなぐ渡殿の辺りから聞こえてきた。





六の君は、はっと息を呑んで、そちらの方を見つめる。




しかし、広廂と孫廂(まごびさし)の間の上長押(かみなげし)が邪魔で、よく見えない。






六の君は気後れすることもなく格子と御簾をくぐって孫廂へと下りて、そのままの勢いで駆け抜け、簀子(すのこ)の濡れ縁まで出た。






もはや、いざというときに身を隠すような几帳はもちろんのこと、御簾も格子さえも周りにはない。





主君の振る舞いを止める術もなく、露草は、月明かりにあかあかと照らし出される六の君の姿を呆然と眺めていた。






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