*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草が危惧を抑えきれずにいた、その時。









くぅん。





と鳴く声が、汀の耳に届いた。







「…………え?」





目をぱちぱちと瞬かせ、汀は顔を上げた。




そうして、きょろきょろと辺りを見渡す。





その視線が、池の水際の岩のあたりで止まった。





「ーーーーあっ!!」




小さな叫びを聞き、露草もその視線の先に目を向ける。






今宵は眉月で、月はさほど明るくない。




その夜闇の中に、白っぽく小さな何かが浮かび上がっていた。






岩陰で震える子犬であった。







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