*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀は小首を傾げて、子犬の前脚に結びつけられているものを解く。




触れてみると、それが薄い麻布の端切れであると分かった。





「何かしら………」





汀は不思議そうな表情で、細く折り畳まれていたその布を広げる。





「…………何か書いてあるようですわね」





傍らから覗き込んでいた露草は呟き、その文字が見えるように紙燭を近づけた。





「…………まぁーーーアヲニマロ?」





そこには、黒々とした墨文字で、『青丹丸』と書き記されていた。





「………この子犬の名前でしょうか」





露草が首を傾げた。



汀はかすかに頷いて答える。






「そうねぇ………。


だとしたら、この子は捨て犬ということかしら。



でも、ちゃんと名前をつけてあるということは、可愛がっていたのよね。



飼い主はきっと、やむなき事情でこの子を捨てなくてはならなかったのね」






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