*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
それは、六の君自身も、よく理解していた。
それでも、好奇心には勝てなかった。
世話役として仕えている女房の露草でさえ、父親は国司級の官位を頂いたかなりの良家の娘であり、土や石に肌を触れたことなど無論なかった。
その露草は今、六の君に倣って庭へ下りる勇気がどうしても湧かず、冷や汗を浮かべながら孫廂の縁でおろおろとしている。
人影は、檜皮葺(ひわだぶき)になっている東の対の屋根の上を、足音もなく移動した。
六の君もそれを追い、寝殿を回って東の対の向こうへ駆けた。
舎人や侍たちは、途中で人影を見失ったのだろうか、近くに誰もいなかった。
遠くの方で、「あっちだ」などと叫び声を上げている。
(まぁ、なんて見当違いな………)と、六の君はひそかに呆れた。
(すっかり平和ぼけしてしまっているのね。いけないわねぇ………)
溜め息をこらえつつ、駆ける足を止めずに東の対の表の庭に回った。
裸足の足裏に、ひやりとした石の表面を感じながら、屋根の上を見上げる。
それでも、好奇心には勝てなかった。
世話役として仕えている女房の露草でさえ、父親は国司級の官位を頂いたかなりの良家の娘であり、土や石に肌を触れたことなど無論なかった。
その露草は今、六の君に倣って庭へ下りる勇気がどうしても湧かず、冷や汗を浮かべながら孫廂の縁でおろおろとしている。
人影は、檜皮葺(ひわだぶき)になっている東の対の屋根の上を、足音もなく移動した。
六の君もそれを追い、寝殿を回って東の対の向こうへ駆けた。
舎人や侍たちは、途中で人影を見失ったのだろうか、近くに誰もいなかった。
遠くの方で、「あっちだ」などと叫び声を上げている。
(まぁ、なんて見当違いな………)と、六の君はひそかに呆れた。
(すっかり平和ぼけしてしまっているのね。いけないわねぇ………)
溜め息をこらえつつ、駆ける足を止めずに東の対の表の庭に回った。
裸足の足裏に、ひやりとした石の表面を感じながら、屋根の上を見上げる。