*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
人影が驚いたように、機敏な動作で振り返った。




その目が、六の君の姿を捉える。







「…………っ」







屋根の上で息を呑む音が、聞こえたような気がした。




人影が慌ててこの場を去ろうとしているのが分かり、六の君は思わず叫んだ。







「ーーーーー待って!」







人影は再び振り向いた。




その動きには、今度は怪訝そうな雰囲気が漂う。






六の君と人影は、言葉もなく視線を交わす。









ーーーその時。







「いたぞ!」という声が、東の対の向こうで上がった。





間髪入れずに、衛士が放ったらしい一本の矢が飛んで来る。






人影は空気を裂く矢の音に気づき、ぱっと身体を逸らした。




矢は間一髪のところで、人影の頭巾を掠めて抜けて行った。







頭巾が、はらりと解ける。






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