*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「あ…………」
六の君の薄花色の瞳は、夜闇の中に燃え上がる、紅緋(べにひ)色の髪に釘付けになった。
(………なんて、きれいな髪ーーー)
闇を照らす篝火の光を、丁寧に撚り集めた糸のような、鮮やかな緋色の髪。
見たこともない色だった。
六の君は息を呑んで、目の前の美しい光景にうっとりと見惚れる。
東の空にぽかりと浮かぶ、鮮やかな梔子色に輝く大きな望月。
それを背に立つ、烏羽玉色の黒い人影。
流麗な輪郭が、繊細な切り絵のようにくっきりと金色を切り抜いている。
そして、頭巾の解けた髪だけが、目映い月光を受けて、真っ赤に燃え上がるように輝いていた。
(まるで、熟練の絵師が、最期の精魂を込めて描いた、絵巻の一場面のよう…………)
六の君は知らず、ほぅ、と息を洩らした。