*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
(………私、こんな顔だったかしら……)




頬に手を当て、首を傾げる。



元気のない汀を気づかうように、青丹丸が膝に前脚を載せてきた。





「………ふふふ。


優しいのねぇ、青丹丸」





汀は微笑んで青丹丸の頭を撫でた。





そこに、露草が戻って来た。



ぬるく沸かした湯を角盥に入れて、雑仕女たちに持たせている。






「まぁっ、姫さま!


鏡の支度までしてくださったのですか!」





「えぇ。だって、暇だったんだもの」






汀は屈託なく笑った。





(お暇だなんて………高貴の姫君は、何もなさらずに座っていらっしゃるのが当たり前ですのに………)





そう思ったものの、露草は口には出さなかった。





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