*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ーーーあのね、六の君さまが、皇室の御方にお輿入れなさるのではないかと、もっぱらのお噂なんですって」






………灯が表情を変えずに、しかしはっと息を呑んだのを、群雲は見逃さなかった。





「………どうした、灯?」





灯は答えない。



ただじっと、緊張したように身体を強張らせたまま、視線を一点に注いでいた。





そのとき黒松が頭上を見上げ、月がずいぶんと傾いているのに気がついた。





「お頭、時刻がーーー」





それを聞いた群雲は頷き、灯を促すように肩を押した。





灯は無反応なまま、されるがままに足を踏み出す。





その耳に、女たちの会話が、こびりつくように入ってきた。








「ーーーまぁ、時の荻原家の姫君、しかも右大臣さまの娘君ですものね」





「しかも噂の通りにお美しい姫君なのでしたら、皇室の御方に入内させたいとお考えになるのは当然ですわね………」






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