*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「………あなた、さっき、何の話をしていたの?」




「………え?」





汀が内緒話をするように、口許を手で隠しながら女に耳打ちする。





「 私の聞き間違いじゃなければ………火影童子、と言わなかった?」





「あぁ、ええ………、左近の大将殿のお邸に盗賊ーーー白縫党が現れたのだと耳にしたので、皆に教えておりました」





「まぁ! それ、いつの話なの?」




「ゆうべです。夜遅くまで騒ぎが続いたそうですよ」




「ふぅん………そうなの」





汀は遠くに思いを馳せるような目つきで、天井を仰いだ。





「………ありがとう、助かったわ。これ、よかったら食べてちょうだい!」






そう言って汀が右手に持っていた桶を差し出したので、女は「え!?」と仰天した。




すると汀は「あっ、ごめんごめん、間違った、こっちだわ!」と照れ笑いを浮かべて、左手に持っていた包みを渡す。




中には唐菓子が入っていた。






桶を抱えて笑いながら軽やかに離れて行く汀を、女は呆然と見つめる。






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