*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
桶を片手に台盤所を横切った汀は、湯を沸かしている釜の前に立つと、近くにいた下女に「これもらっていい?」と訊ねる。




女は驚いたように言葉もなくこくこくと頷いた。




汀はにっこりと笑って、桶を床に置く。



そして近くの甕から杓子で水を汲み、桶の半分辺りまで満たすと、次に熱湯を入れて、ぬるま湯を作った。





「ありがとう、助かったわ」




下女に笑いかけて、今度は両手で桶を抱えて台盤所を出て行った。





台盤所にいた下女たちは、揃って口をぽかんと開いたまま、汀の後ろ姿を見送るのだった。









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