*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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「露草! 露草!」
高欄につかまっておろおろと六の君の行方を案じていた露草は、こちらへ向かって庭の中央を駆けてくる主の姿を見つけて、思わず身を乗り出した。
「姫さま!
あぁ、姫さま!!
御無事で良うございました!!」
安堵の声を上げる露草の心配をよそに、六の君は袴の裾を捲り上げたまま勢いよく階を駆け上がってきた。
「露草! 大変、大変!
急いで薬師を呼んでちょうだい!!」
慌てた様子で言う六の君に、露草はさらに慌てふためいた。
「まぁっ、姫さま、なんてこと!
どこをお怪我なさったのですか!」
「あら、私じゃないのよ」
「え? 姫さまではございませんのですか?
では、その御手のものは……?」
戸惑いを隠しきれない露草の視線を追った六の君は、「あぁ、これ?」と血に汚れた右手を上げた。
「これは私の血ではないのよ。
怪我人が出たの、矢傷よ。
ひどい怪我だから、早く手当てをしなきゃ。
露草、とにかく、早く薬師を……」
六の君はそう言って、近くに控えていた女童を呼んで湯の用意を言いつけた。