*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草は訳も分からぬまま、わたわたと下女の詰所へ向かい、この邸のひいきの薬師を呼びに行かせる。






(いったい、何が起こっているのかしら……)






六の君や露草に限らず、この時代の貴族女性の生活というものは、とにかく変化がない。





屋敷の奥深くにひっそりと住まい、家族や、身の回りの世話をする女官たち以外とは顔を合わせることさえない。



屋敷の外との接点は、全くないのだ。





毎日毎日が同じことの繰り返しで、いつもと違うことなど起こるはずもない、そう思い込んでいた。





―――そんな日々の中で、このように予測もしなかった出来事が起こっていることに、露草の心はついていけなかった。





薬師を呼ぶよう下男に言付けた露草が母屋に戻ると、六の君はまたもや庭に降りようとしているところだった。






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