*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「まぁっ、姫さま!


いけませんわ、おみ足が、お裾が、汚れてしまいます………」







露草は慌てて六の君を止めようとする。


しかし六の君は、なんとも心外そうな表情になった。







「あら、ふふ、いやぁね、露草ったら。


私さっき、東の対の向こうの築地まで、走って行ってきたのよ。


裾も足も、もうすっかり汚れてるわ」







「そ、そうですけれど………」








露草は言葉に詰まってしまった。








「そんなことより、露草!


ちょっと手伝ってくれないかしら?

怪我人をここまで運んでこなきゃ。


一人じゃ連れて来れないから、あなたに手を貸してほしいんだけど」








「えっ、ええっ。


ええと、そのお方はどこに………」







「東の対の庭の、立蔀の陰に隠してきたの」







「まぁ、それでは、庭に降りて、でございますよね………」








露草は戸惑ったようにちらりと視線を落とした。






< 30 / 650 >

この作品をシェア

pagetop