*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
立蔀の近くに辿り着いた六の君は、自らの唇に人差し指を当てて、「しぃっ」と小舎人童に釘を刺しておいてから、胸に矢を受けた男の身体を引っ張り出した。





童二人は、見たこともない緋色の髪に、わっと息を呑む。







「お、おそれながら、六の君さま………」







年長のほうの童が、遠慮がちに小声で口を開く。







「あら、なぁに?」







六の君は小首を傾げて訊き返した。







「こ、この者は、いったい……。


この紅い髪ーーーよもや、妖(あやかし)の類の者なのでは……?」







童は怯えたような表情をしていた。



すると六の君は、心外といった表情で目を見開く。







「………あら。

それ、どういうこと?


この人の髪が、普通の人と違う色をしているから、妖だと思うというわけ?」







「………はぁ」







「では、あなたから見たら、わたくしも妖ね?


だって、人とは違って、こんなに蒼い瞳をしているのだもの」








六の君が自らの瞳を指差しながらそう言うと、童たちは慌てて首を振った。








「そっ、そのような、めっ、滅相もございませんっ!!


六の君さまが妖だなどと、そのような畏れ多いこと……っ!!



も、申し訳もございませんっ!!」








目を白黒させて慌ててふためく二人の少年を、六の君は可笑しそうに眺めた。






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