*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ふふふ。


………冗談よ、冗談。

からかってごめんなさいね」







優し気に細められた双眸を見て、小舎人童はほっと息を吐いた。








「この人は、きっとただの人間よ」







「………そうでしょうか?」







「だって、この人が本当に妖だとしたら。


普通の人間の放った矢なんかにやられちゃうだなんて、間抜けで仕方ないじゃない?」









六の君が片目を瞑ってそう笑ったので、緊張していた童たちも子どもらしく明るい笑顔を浮かべた。








「………とにかくね。

あたしは、どうしてもこの人を助けたいの。


ねぇ、あなたたち、協力してくれる?」








童二人はこくこくと頷く。



六の君はにっこりと微笑んだ。








「よし、じゃあ………。


私が肩の方を持ち上げるから、あなたたち、二人で腰と足を支えてちょうだい」








三人は、ぐったりとした男の身体をなんとか抱え上げ、物陰に紛れるようにして北の対へと急いだ。






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