*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
六の君と小舎人童たちが肩を並べて、うんしょ、うんしょと運んできた男を見て、露草は声も出ないほどに吃驚仰天した。







「………きゃ……っ。


ひっ、ひめ、さま……」







その声が見事に裏返っているので、六の君は思わず笑ってしまう。







「なあに、露草。


ただの怪我人よ」








六の君はこともなげに言うが、露草はそれどころではなかった。







「………そっ、その紅髪の者は、いったい………?」







露草の狼狽を物ともせず、六の君はけろりとした表情で答える。







「この人が怪我人なの。


ずいぶん深い傷みたいだから、急いで手当をしてもらわなきゃ」







六の君は童たちと共に男の身体を母屋に引き入れた。



そのまま男の身体を引きずり、塗籠(ゆりごめ)まで連れ込む。




塗籠とは、母屋の奥に設けられた小部屋のことで、土で厚く塗り込んだ壁で四方を囲まれている。



窓がないため、外から見られる恐れがないのだ。





男は相変わらず意識がない。




とりあえず、中央に置かれた畳の上の褥に寝かせ、六の君は一息ついた。






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